葬儀に際して休暇を取得する際、私たちが拠り所とするルールには大きく分けて2つの層が存在します。第1の層は、すべての労働者に平等に適用される「労働基準法」です。第2の層は、各企業が独自に定める「就業規則」です。この2つの違いを正しく理解しておくことは、自身の権利を守る上で非常に重要です。まず、多くの人が葬儀の際に利用する「慶弔休暇」は、実は法律で義務付けられたものではありません。これは会社が福利厚生の一環として任意に設定しているもので、日数の決定や、そもそも休暇を与えるかどうかも会社の裁量に委ねられています。そのため、会社によっては「兄弟の葬儀は3日だが、祖父母の葬儀には休暇を与えない」といった規定があっても、直ちに違法とはなりません。ここで登場するのが、第2の強力な権利である「有給休暇」です。労働基準法第39条に基づき、雇い入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、必ず有給休暇が付与されます。有給休暇の最大の特徴は、その「自由利用の原則」にあります。労働者は、どのような理由であっても有給休暇を請求することができ、会社側は原則としてこれを拒むことはできません。会社には「時期変更権」という、事業の正常な運営を妨げる場合に休暇の日をずらしてもらう権利がありますが、葬儀のように日時が固定されているイベントに対し、時期変更権を行使することは実質的に不可能です。したがって、就業規則に定める慶弔休暇の対象外であっても、有給休暇を使えば確実に葬儀に参列することができるのです。また、有給休暇の使用を理由に、賞与の査定を下げたり、不利益な扱いをしたりすることは法律で固く禁じられています。さらに、2019年の法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、年5日の取得が義務化されました。これにより、葬儀で有給休暇を消化することは、会社にとっても「義務を果たす」というメリットに繋がるようになっています。注意点としては、有給休暇は事前の申請が原則である点です。葬儀のように突発的な事態では「事後承認」をお願いすることになりますが、就業規則に「事後の有給振替は認めない」という厳格な規定がある場合は、会社との交渉が必要になることもあります。しかし、現代の裁判例では、慶弔などのやむを得ない事情による事後の振替を認めないことは、公序良俗に反すると判断される傾向が強いです。ルールを正しく知ることは、決して会社と対立するためではなく、お互いが納得できる形で「人の死」という重い出来事に向き合うための、知的な防衛策なのです。
労働基準法と就業規則から読み解く葬儀と有給の権利