葬儀に際して香典を準備する時、多くの人が水引の色や結び方に気を配りますが、不祝儀袋のマナーはそれだけではありません。表書きの書き方からお札の入れ方まで、袋全体を通して故人への敬意とご遺族への配慮を示すための、細やかな作法が存在します。これらの全体の流れを理解することで、より一層心のこもった香典を準備することができます。まず、袋の顔となる「表書き」です。水引の上段中央に、宗教に合わせた名目を書きます。仏式であれば「御霊前」が一般的ですが、浄土真宗の場合は亡くなるとすぐに仏になると考えられているため「御仏前」とします。宗派が不明な場合は「御香典」と書くのが最も無難です。これらの文字は、「悲しみの涙で墨が薄まった」という意味を込めて、薄墨の筆ペンや毛筆で書くのが正式なマナーです。水引の下段中央には、自分の氏名をフルネームで書きます。これは濃い墨で書いても構いません。次に、お金を入れる「中袋(中包み)」の扱いです。中袋の表面中央には、包んだ金額を「金 壱萬圓也」のように、大字(旧字体の漢数字)で縦書きします。裏面の左下には、自分の住所と氏名を書きます。これは、ご遺族が後で香典返しなどを手配する際に必要となる大切な情報ですので、読みやすい楷書で丁寧に書きましょう。そして、お札の入れ方にも作法があります。お札の肖像画が描かれている面を、中袋の裏面(封をする側)に向け、さらに肖像画が下になるように入れます。これは、悲しみに顔を伏せる、という意味合いを表しています。また、香典には新札を使わないのがマナーです。もし手元に新札しかない場合は、一度軽く折り目をつけてから入れるようにしましょう。最後に、この中袋を外側の不祝儀袋で包みます。外袋の裏側の折り返しは、「悲しみが下に流れるように」という意味を込めて、上側の折り返しが下側にかぶさるように折ります。慶事の時とは逆になるので注意が必要です。これら一連の作法は、一つ一つが故人を悼み、ご遺族をいたわる心の表現です。面倒に感じるかもしれませんが、この丁寧な手作業の中に、言葉を超えた弔意が宿るのです。
水引だけじゃない不祝儀袋全体の作法