葬儀で使われる不祝儀袋の水引には、「結び切り」と並んで「あわじ結び」という結び方が用いられることがあります。結び切りに似ていますが、結び目がより複雑で優美な曲線を描いているのが特徴です。このあわじ結びは、慶弔両用で使われる非常に縁起の良い結び方であり、その形には深い意味が込められています。あわじ結びは、その名の通り、海の幸の「鮑(あわび)」に形が似ていることから名付けられたとされています。鮑は古来より、長寿や繁栄をもたらす縁起物として、神様へのお供え物などに用いられてきました。その神聖な鮑の形を模したあわじ結びには、相手への敬意や、物事の成就を願う気持ちが込められています。この結び方の最大の特徴は、両端を引っ張ると、結び目がさらに固く締まるという点にあります。このことから、「一度きりの縁」「末永く続く縁」という、二つの意味を同時に表現することができます。そのため、結婚祝いなど「一度きりであってほしい」慶事と、葬儀など「二度と繰り返してほしくない」弔事の両方で用いられるのです。弔事においては、この「一度きり」という意味が強調され、「この悲しみが今回限りでありますように」という祈りを込めて使われます。また、結び切りよりも装飾的で華やかな印象を与えるため、より丁寧な気持ちを表したい場合や、高額な香典を包む際に選ばれることもあります。特に関西地方では、慶弔を問わず、このあわじ結びが非常に好まれる傾向にあります。水引の文化は、単なる飾りや形式ではありません。その結び方一つ一つに、先人たちが育んできた言霊のような、祈りや願いが宿っています。あわじ結びの複雑に絡み合った曲線は、人と人とのご縁の深さや、決して解けることのない絆を象徴しているようにも見えます。故人とのご縁に感謝し、その絆が来世でも続くようにと願いながら、あわじ結びの水引がかけられた不祝儀袋を選ぶ。それは、故人への最後の贈り物として、非常に心のこもった選択と言えるでしょう。
あわじ結びの水引が持つ特別な意味